大森靖子が語る、新作をメジャーで出した意味 「人がぐちゃぐちゃに表現できる場所を増やしたい」

「ロックスターの役割みたいなものが自分に回ってきている感がある」

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--「ロックンロールパラダイス」という曲では、〈30分だけスターになりたい〉と歌っていますね。

大森:これはスターというよりロックスターで、自意識過剰なんですけど、ロックスターの役割みたいなものが自分に回ってきている感があって。それってババ抜きみたいなもんじゃないですか? 他が引いてくれないからずっと私のところにある、みたいな感覚があって、なんで私なんだろうとか思うんですけど、まぁ、回ってきたんだからやんなきゃなって思っています。だいたい私の(ライブの)持ち時間って30分なんですよ。その時しかちゃんとやってないというか、その後は「お腹空いた」とか、「眠いな」くらいしか考えてないんですよね。曲のこと考えてるときはめっちゃワクワクしてるんですけど、基本的には体力ゼロで、いかに消耗せずに生きていくかばっかり考えています。だから30分だけで良いんですよ。

--以前のインタビューではロックスターになるつもりはないと仰ってましたが、お鉢がまわってきている感覚はあって、そこは引き受けると?

大森:ロックってよくわかなんないですけど、社会のアンチテーゼみたいなものじゃないですか? そうやって考えると、人が生きやすいように考えられてきたルール自体が、実はめちゃくちゃ人を生きにくくしていたよね、とか思って。とりあえずそこを一回壊さなきゃいけないとか、自由にしなきゃいけないってことはすごく考えてる。仕事として、そうしなきゃと思っています。

--ご自身でも、ルールの不自由さを感じることはありますか。

大森:ありますね、あるある。創作の現場で主に感じています。若いときは、それは自分が悪いからだという感覚がありました。社会が正しくて私が悪だから、私が消えなきゃいけないって思ってた。でも、本当はどっちも正しいじゃないですか? 普通に生まれてきて普通に育ってきた私が普通になれないなら、世の中の方がおかしいんじゃないか、じゃあ世の中を正せば良いと思って。最近は、それが「人が仕事をする」ってことなんじゃないかと考えています。

--大森さんなりに世の中に風穴を開けていくってことですね。

大森:過去の自分か、人のためですね。今の自分のためではまったくなくて。10代の私はかわいそうだった(笑)。自分がかわいそうと思って生きてはなかったけど、よくよく考えたら、何でこれをやるのを迷っていたんだろうって思うことがたくさんあって、その時間がすごいムダだったなって思う。

--過去の大森さんを苦しめていたルールとは、たとえばどんなことでしょうか。

大森:TVが正義だと信じていて、自分は歌う人にはなれないと思っていたのが、一番間違っていましたね。銀杏BOYZが好きなことはずっと言ってなかったんですけど、峯田さんにメールを送り続けていたのをばらされちゃって。でも峯田さんは「こういうやつこそ歌えばいいのに」って言ってくれていたんです。友達が「峯田さんが大森さんのことを話してたよ」って教えてくれて。峯田さんはちゃんとロックスターとしての役割を果たしていたんですよね。こんなにめちゃくちゃでいいんだから、こんなに下手でいいんだからって教えてくれた。あのわざとらしいくらいに下手なギターの弾き方で、私でも音楽をちゃんとやれるんだよっていうのを示してくれたから、私もそれは絶対にやりたい。それを見て音楽やろうと思ったわけじゃないけど、「やっていいんだ」っていう風には思えたし、そもそも、みんな最初から演奏なんてできるわけないんだから。

--現在の自分ではなく、過去の自分や、他の人のためにやるというのは、自己犠牲的なものも感じます。

大森:今の自分だけ気持ちよくなりたいならメジャーなんてすぐに止めたいですね。最近、無人島で絵を描きたいって気持ちにすごくなるんですよ。そっちの方が楽しいに決まっている。けど、やらなきゃいけないことがあるから。

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--この作品を世に出した先のことは、どうイメージしてますか。

大森:武道館くらいの規模が、一対一の表現ができる限界なんですよ。だから武道館くらいまではやりたいなと思っていますが、その後は面白いやつをプロデュースしたいです。金渡して好きなことやらして、それを拡散して私が金を稼ぐみたいな。そっちの方がやりたいですね。

--黒幕プロデューサーですね(笑)。ただ、当面は武道館が目標。

大森:そうですね。やって限界が見えたら、誰か探してという。

--その限界はまだ先でしょうか。

大森:まだまだ先ですね。直枝さんの限界が見えないので(笑)。直枝さんをずっと引きずり込もうと思っています。最後の曲(「おまけ♥~スーパーフリーポップ~」)のアウトロなんて、7分くらいのものを作ってきたんですよ。「長いです」って送り返して、半分くらいにしてもらった。新しい機材を買ったから作りたくなったんでしょうけど、まったく別の曲じゃねえかって(笑)。「おまけにしたら長すぎるじゃん、本編より長いっすよ」って言ったら、半分にしてくれたんですけど、そのやり取りの感じとかもすごく好き。かわいいですよね。機材買ったことにあれだけ興奮できる、音楽少年みたいな感覚がまだ残っているんだって。直枝さんはこんなことを30年もやり続けてるのかと思うと、見ていてワクワクする。……まわりには、私と同世代は全然いないんですよ。下はどんどん出てきていて、上もいるんですけど、ちょうど自分の世代は全部失っていたのかなって思います。全部失っていて、全部あった。全部あって、それを組み合わせて作っているような感覚。デコレーションケータイが流行っていて、そういう文化の中で育った世代。下の世代はもっと器用なんですよ。でも私たちって、中学生のときにiモードが普及してきたくらいで、いろんなことが変わる時期だった。本当は、この世代の面白さってめちゃくちゃあるんですけど、それを共有できる人が周りにいないのは寂しいですね。だから、同世代にはどんどん出てきてほしいし、私もやれることはやろうと思ってます。

(取材=神谷弘一/写真=金子山)

■リリース情報
『洗脳』
type■洗脳CD+DVD(ピントカライブ)
AVCD-93072/B ¥5,184(税込)

type★洗脳CD+DVD(モリステ特大号)
AVCD-93073/B ¥4,104(税込)

type▲洗脳CD
AVCD-93074 ¥3,024(税込)

CD収録曲(※全タイプ共通)
1. 絶対絶望絶好調
2. イミテーションガール
3. きゅるきゅる
4. ノスタルジックJ-POP
5. ナナちゃんの再生講座
6. 子供じゃないもん17
7. 呪いは水色
8. ロックンロールパラダイス
9. 私は面白い絶対面白いたぶん
10. きすみぃきるみぃ
11. 焼肉デート
12. デートはやめよう
13. おまけ♡~スーパーフリーポップ~

ピントカライブDVD(※type■のみ)
2014.10.3大森靖子&THEピンクトカレフ「2日間で超楽しい地獄をつくる方法」東京キネマ倶楽部ライブ映像ver.(約60分収録予定)

モリステ特大号DVD(※type★のみ)
絶対絶望絶好調(Video Clip)
ノスタルジックJ-POP(Video Clip)
スタッフクソキノコによる大森靖子メジャーデビュードキュメンタリー「一生無双モードって言ったじゃん!せいこはつらいよ'14」ver.(約60分収録予定)

※「type■」の初回盤には写真家・佐内正史によるニューヨーク撮り下ろしの80ページのフォトブック付き

大森靖子公式サイト

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