Shiggy Jr.がライブで見せた“末恐ろしさ”ーー穏健なようでラディカルな音楽性とは?

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この日のShiggy Jr.は総勢11人の特別編成で演奏を行った。(写真=後藤壮太郎)

 MCでも触れていたが、Shiggy Jr.は結成してまだほんの2年。結成当初から歌ってきたという「やくそく」では、サウンドの素朴さが現在のShiggy Jr.とのコントラストを浮びあがらせていた。「サンキュー」は、終盤で原田茂幸がヴォーカルを担当するパートにカタルシスのあるミディアム・ナンバー。「おさんぽ」は再びブラスセクションが活躍するソウル風味の楽曲だった。

 驚いたのは、現時点での彼らの代表曲ともいえる「LISTEN TO THE MUSIC」で、森夏彦がベースを置いたことだった。テクノに振り切れたこの楽曲にふさわしいともいえる光景だ。「Saturday night to Sunday morning」は、そのメロディーラインの鮮やかさとともに本編ラストを飾ることになった。

 フロアの熱気はまったく冷めることはなくアンコールへ。「Dance Floor」はその興奮に応えるかのようなディスコ・ナンバーだった。

 そしてアンコールの最後に披露されたのは、なんと小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギーバック」のカヴァー。SANABAGUNの2MCを迎えてのものだった。

 私は内心で唖然とした。ここまで書いてきたように、Shiggy Jr.のサウンドは特定の音楽性に縛られたものではない。2013年のアルバム「Shiggy Jr. is not a child.」を聴いたときも、まず印象に残ったのは、原田茂幸の書く楽曲の研ぎ澄まされていてキャッチーなメロディーと、池田智子のヴォーカルの表現力の豊かさという根幹の部分だった。サウンドは多彩でもあるのだが参照元がバラバラで、その極めつけが、アルバム「Listen To The Music」でのサウンドの変化のきっかけがバナナラマやカイリー・ミノーグを聴いたことだった、というエピソードだ。80年代のストック・エイトキン・ウォーターマンによるユーロビートやハイエナジーの影響、という文脈の飛躍っぷりにはある種の困惑も覚えたし、その大胆さこそがShiggy Jr.をShiggy Jr.たらしめていると痛感したほどだ。

 そうしたShiggy Jr.のスタイルには、渋谷系という文化を連想せずにはいられなかったが、しかしそんな使い古された言葉を用いるのもいかがなものか……とライヴ中に考えていたところに、最後の最後で叩きつけられたのが「今夜はブギーバック」だった。それは、渋谷系というキーワードを過剰に意識しがちな自分の世代の感覚が軽く打ち壊されるような体験でさえあった。

 Shiggy Jr.は正しい。彼らの無自覚な暴力性こそが前世代を乗り越えていくのだ。私は、原田茂幸が山下達郎を好きだという事実と同じぐらい、池田智子がゆらゆら帝国を好きだったものの自分の声には向かないからとポップミュージックへ向かったというエピソードが重要だと考える。そこに彼らのポップミュージックへの献身の理由を見るからだ。見事なまでにキャッチーなメロディーと、一聴して人の耳を引きつけるサウンドを生み出し続けているのは、それがあってこそだろう。そうした資質と才能ゆえに、Shiggy Jr.という存在はシーンの中で一際輝くことになった。彼らは体系性を無視してもまったく問題がない。穏健なようでいてラディカルだ。Shiggy Jr.の今夜のライヴを見て、“末恐ろしい若者たち”と感じてしまったのは、そんな理由からだった。

  tofubeatsのEP『ディスコの神様』には、ラブリーサマーちゃんとともに池田智子がコーラスで参加していた。寺嶋由芙のシングル『カンパニュラの憂鬱』でベースを弾いていたのは森夏彦だし、同じく寺嶋由芙のミニ・アルバム『好きがはじまる』に収録されていた「#ゆーふらいと」のリミックスを手掛けていたのは原田茂幸だ。12月2日に発売されるNegiccoのシングル『光のシュプール』のカップリング「1000%の片想い」では、Shiggy Jr.が演奏と編曲を担当している。彼らが日本のポップミュージックのメインストリームに飛び込むのは時間の問題だ。そこで“末恐ろしい若者たち”がまた予想もできない音を聴かせてくれないか。11人編成でのライヴを見てから、そんな期待を抱き続けている。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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