unBORDEヘッド鈴木竜馬氏インタビュー(後編) 「マイノリティに勇気を与える作品を」

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「『売れたらいいな』『届いたらいいな』では届かない」

――海外の受け手とその潜在層に向けて、今後どのように届けていきますか。

鈴木:さらにやりたいことはありますが、そんなに簡単ではないと感じています。ただ、身の置きどころとして、ワーナー・ミュージックはすごくいいですね。ワーナーには、グローバル企業にしかない、世界のネットワークがある。きゃりーのお陰もあって、僕はニューヨーク、ロンドン、パリ、あるいは台湾やタイなど周辺国のワーナーのスタッフの顔が見えるようになってきました。

 海外展開のポイントはふたつあって、ひとつはやはりアーティストポテンシャルです。当然、きゃりーという子はすごいポテンシャルを持っている。もうひとつはマーケット側の状況を踏まえて、何を持って世界に出て行くかです。きゃりーはCDをリリースしましたが、海外のフィジカルのマーケットは、日本など比べ物にならないくらい激減している。つまり、やるならばフィジカルにこだわるような世界展開ではなく、iTunesと組んで世界的に売っていくことになります。ただ、各国で他所の国のアーティストをどれだけ一生懸命やれるか、というとそう簡単ではありません。海外活動をルーティンにしてやっていくことで疲弊したくはありませんから、ボタンを押せるアーティスト、タイミングでしか仕掛けるべきではないと考えています。きゃりーは向こうでの評価もいまだに高いし、それが国内にも跳ね返ってきたので、やってよかったですね。

――パスピエも英語詞でリリースするなど、チャレンジしていますね。

鈴木:あのように、やるならやるなりのことを真剣にやらないと届きません。国内もそうかもしれませんが、「売れたらいいな」「届いたらいいな」では届かない。「ネットでバズらせて」などとよく言いますが、その後にどうするのか考えないと意味がありません。どうすればどういうインフルエンスが起こるか、ということは個々のアーティストごとに、ターゲットの顔や志向性も見て、やり方を考えなければいけない。単純な話、達郎さんを売るのとゲスを売るのとではまったく違います。例えば、達郎さんの『BIG WAVE』が30年ぶりにリマスタリングされて、みんなが売上で四苦八苦しているなかで、普通に5万枚を売り上げる。そのやり方は、朝日新聞に広告を打って、Amazonにつなげるというものです。アーティストごとのオンターゲットで、ブレずに動かなければいけない。もちろん、良い作品を作るのが大前提ですが。

――先ほどおっしゃったように、第一に制作集団としての基盤がある、ということですね。

鈴木:そうです。アーティストと共に良いものを作って届ける、ということがベースにあって、僕は一生A&Rでいいと思っています。

――いろんなテーマが出ましたが、「暴走族理論」というのが、今回のお話のひとつの核になりそうですね。

鈴木:そもそもいまの人は暴走族を知らないだろうけれど、他にいい例えがないんですよね(笑)。簡単にいえば、「いろいろなキャラクターがいて、それがひとつの傘の下に集まっている」ということです。そして、それはマスに向けたものでなく、時代のなかでちょっと斜に構えた人に向けたものであって。暴走族だって社会通念上は認められていないのに、それに惹かれる人たちがいる。湘南乃風は売れていますが、本人たちもファンも、みなが不良なわけじゃない。そういうものに憧れる子たちがいる、ということです。

――unBORDEがひとつのメディアになっているとも見えますが、そのようにしていきたいとは考えていますか?

鈴木:まだとてもそこには及びませんし、メディア力を持とうとは思っていませんが、ブランド力は高めたいです。そういうものがゆくゆくはイベントやレーベルのマーチャンダイズにつながればいいなと。「unBORDE」と描いたTシャツを着てくれる子が出てくればいいですね。

――さて、来年以降はツアー形式での展開もあると聞きました。

鈴木:それにはビジネスライクな意図もあります。つまり、10アーティストを2500のキャパで1日やっていてもビジネスにならない。あれはアイデンティティの問題で、事務所にお願いしてノーギャラで旗の下に集ってもらっています。でも、やっぱりアーティストに還元しなきゃいけないし、お客さんもアーティストも1日で疲れきってしまう。それならば1日3~4組で出演アーティストのパズルをして、全国でやれた方が興行としてもビジネスにつながるでしょう。それから、スポンサードをしてもらっていますが、ナショナルクライアントになればなるほど、「本当は全国でやってくれれば、東京以外の地域の人たちに還元できるのに」という話になる。そういうことも含めて、unBORDEの旗印を地域の人たちに供給するためにも、ツアーでやりたいと思います。

――ここ何年か、フェスはメディア性を持った大きい存在になっています。リスナーからすると、「レーベルごとにフェスがある」というのも選択肢として面白いですね。

鈴木:メディアが主催する大きなフェスがありますが、少し乱暴な言い方をすると、そこでアーティストのために一番汗をかいているメーカーが報われないのはどうなのかな、と思うところがあって。プロモーションとしてはいいかもしれないけれど、ギャランティは事務所に払われるわけですし、メーカーは疲れてしまうということもある。もちろん、音楽フェスをここまで大きなカルチャーにして、そこにビジネスを生んだことに関して、先駆者には大変なリスペクトもありますし貢献度もあると思います。それには何の文句もつけようもない。ただ、CDのマーケットが縮小しているときには、昔と同じスキームではなく、共存共栄の方法を僕らからもいろいろな形で提案していかなければならない、ということでしょう。

――レーベル独自のフェスやライブ興行を増やしていく、という考えもありますか?

鈴木:そこは半々です。もちろん、メーカーとしてもライブで収益を上げたいと思うけれど、フェスはアイデンティティを提示するためのお祭りでもあるから、あまり杓子定規には考えたくないなと。ただ、unBORDEフェスというお祭があって、そこに来たいと思う地域の人たちにいい音楽を供給できればいいな、という感覚です。暴走族の集会を地域で…なんて言うとまた変な話になっちゃうけど(笑)。単にビジネス面だけで考えているわけではない、ということです。

(取材=神谷弘一/撮影=下屋敷和文)

■公演情報
「unBORDE Xmas PARTY 2014」
開催日:2014年12月23日(火・祝)
開場12:00/開演13:00(終演予定:21:00)
会場:Zepp Tokyo
料金:1F立見 \5,500(税込)  ※ドリンク代別 ※クリスマスプレゼント付
出演アーティスト:
・androp
・indigo la End
・きゃりーぱみゅぱみゅ[NEW!]
・ゲスの極み乙女。
・神聖かまってちゃん
・高橋優[NEW!]
・チームしゃちほこ
・tofubeats
・RIP SLYME[NEW!]

イベントオフィシャルHP http://unborde.com/xmas/ 

【unBORDEについて】
2010年12月21日に”時代感”と“エッジ”をテーマに、日本のみならず海外にも発信していくことを目指し発足。
androp、indigo la End、CAPSULE、きゃりーぱみゅぱみゅ、Q;indivi+、ゲスの極み乙女。、神聖かまってちゃん、高橋優、チームしゃちほこ、tofubeats、パスピエ、THE PRIVATES、RIP SLYMEが所属。

label official site http://unborde.com/
WARNER MUSIC JAPAN http://wmg.jp/

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