今こそ聴きたい極上の日本語ポップス ビリー・バンバンの“隠れ名盤”を紐解く

 さて、たくさんある彼らのレコードの中から、今の気分で聴いておきたい作品を選ぶとなると、個人的には『TWO WAY STREET』に落ち着きます。これは、1976年に発表されたいわゆる解散記念盤。この作品を最後にそれぞれソロ活動に入るのですが、とにかく洗練されたサウンドとコーラスに驚かされます。40年近く経った今の耳で聴くと、いわゆる極上のソフト・ロックといったところでしょうか。冒頭の「青春の道程」はバート・バカラックやポール・ウィリアムスといった職人作曲家による名曲を思わせますし、続く「雨のテーマ」は「If」などのヒット曲を持つブレッドにインスパイアされたと思われるドリーミー・ポップ。そしてグルーヴィーな「1965年夏」はAORやソウルのフレイヴァーが散りばめられていて、全体的に当時の洋楽のエッセンスが濃密に感じられるのです。このあたりは、高中正義、深町純、高橋幸宏といったサポート・ミュージシャンの力量もあるとは思うのですが、本来ビリー・バンバンが持っていたセンスが結実したということなのでしょう。

 そして圧巻なのが、LPでいうところのB面にあたる後半部分。9曲の代表曲を20分弱にまとめ、新しいアレンジを施してA面に匹敵する洋楽っぽさを打ち出しています。全編のアレンジを担当したのは、ドラクエでおなじみの作曲家すぎやまこういち。アコースティック・ギターをメインに、管楽器やストリングスなどで彩ったオーケストレーションが美しく、「白い馬に乗って」や「思い出を作ろう」のように、フィラデルフィア・ソウルを彷彿とさせるモダンな感覚も、兄弟二人のハーモニーを引き立てているのです。

 いずれにせよ、『TWO WAY STREET』は、この当時のポップス・アルバムとしては非常に画期的でクオリティが高いのですが、なぜかこれまでほとんど評価されていないのです。ビリー・バンバンというと、どうしても歌謡フォーク的な位置付けにされてしまうのが残念でなりません。少しでも洋楽のフォーク・ロックやソフト・ロック、そしてキリンジから「森は生きている」につながるメロディアスな日本語のポップスに興味を持っているのであれば、日本にもこんな実力派がいるっていうことくらいは、一般常識として知っておきたいものです。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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