山下智久の4thアルバムはカオス? 宇野維正がチャート1位作の方向性を考察

 言うまでもなく、ジャニーズによるロックバンド/シンガーソングライター系ミュージシャンの積極的な起用自体は、別に珍しいことでも何でもありません。たとえば山下智久の2012年のシングル「愛、テキサス」における相対性理論の起用も、その約2年前にSMAPのアルバム収録曲「GAIAにおねがい」でお試し済みのもの。ただ、ジャニーズ事務所内において山下智久と同じ派閥とされるSMAPがこれまで伝統的にその時「旬」のミュージシャンを起用してきたのに比べて、山下智久の場合はベテランから若手まで、大物からインディーズまで、まさになんでもあり状態。まぁ、SMAPがあまりにも広告代理店的で、山下智久がよりニュートラルに楽曲至上主義をとっているという好意的な見方もできるのですが、「SMAPに曲を提供した」ことと「山下智久に曲を提供した」ことに歴然としたブランド価値の差があるのは、単にSMAPとのキャリアや売り上げの差だけのせいではないでしょう。ちょっと穿った見方をするなら、とりあえず気になったミュージシャンには唾をつけとけ(同事務所別派閥のユニットが唾をつける前に)的な感じも受けたりして。とりあえず、現状のカオスとしか言いようがない作家陣の並びを見る限りでは、山下智久(の音楽制作スタッフ)に認められたことにはさほどプレミア感がないと言わざるを得ないのです。

 言いたい放題言ってしまいましたが、そんな自分も実はこれまでシンガー/パフォーマー山下智久の魅力に何度かノックアウトされたことがあります。中でも最高だったのは、2011年の安室奈美恵のコラボレーションアルバム『Checkmate!』に収録されていたデュエット曲「UNUSUAL」。クソカッコよかったミュージック・ビデオの仕上がりも含め、あの時は「日本のジャスティン・ティンバーレイクは山下智久しかいない!」と思いましたね。でも、何故か近年の自身のフルアルバムではああいうクールでフォーマルなシンガー/パフォーマーとしての山下智久は封印されていて、今回もヌルい応援ソングが並んだアルバムに(例外は2PMのJun.Kの曲に山下智久が詞をつけたまるでジョージ・マイケルの後期ソロ曲のような「ブローディア」と、EXILEやK-POP系のアーティストへの提供曲も多いSTYによる「B-A-N-G」でしょうか)。そこにはK-POP系やEXILE系の男性シンガーとの意図的な棲み分けもあるのかもしれませんが、山下智久がスーツ&タイ姿で本気のダンストラックをかましたら、少なくともアジアでは誰にも負ける気がしないんですけどね。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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