合言葉は「泣け! 叫べ! 盛り下がれ!」 アーバンギャルド主催『鬱フェス』の批評性とは

20140925-utufes3.JPG

 

 当然のことだが、『鬱フェス』の性格をよく体現していたのは、主催者アーバンギャルドと、彼らに少なからぬ影響を与えた筋肉少女帯である。この日の筋少は、短いステージだからかキーボード抜きの編成だったが、『鬱フェス』にふさわしい曲として「蜘蛛の糸」を選んでいた。教室で友だちのいない少年が、ノートに猫の絵を描きながら世界を呪う歌である。一方、アーバンギャルドは、自分撮りを自傷行為の一種と見立て、「自撮」を「じさつ」と読む「自撮入門」を演奏した。これら2曲は、中二病的な鬱屈した自意識過剰をテーマにしつつ、騒がしいサウンドでストレス発散に結びつけている点などで、2バンドが共通する体質を持っていることを示していた。

 この日は聴けなかったものの、10月8日発売の筋少の新作『THE SHOW MUST GO ON』の「霊媒少女キャリー」には、アーバンギャルドから浜崎容子がゲスト参加している。そして、『鬱フェス』ではアーバンギャルド『鬱くしい国』収録の「戦争を知りたい子供たち」が、アルバムと同じく筋少の大槻ケンヂを加えて演奏された。この曲には、アーバンギャルドの方法論がよくあらわれている。

20140925-utufes7.JPG

 

 『鬱くしい国』とは、安倍晋三・現総理大臣の本の題名でスローガンでもある『美しい国へ』のパロディであろう。「戦争を知りたい子供たち」という曲名は、1971年にジローズが発売した反戦歌「戦争を知らない子供たち」(作詞はザ・フォーククルセダーズで活動した北山修)のもじりである。「戦争を知りたい子供たち」を作詞した松永天馬は、過去のカルチャーを引用しつつ、好戦的な感情というネガティヴなものをあえて前面に出すことで、右傾化するこの国の現状を皮肉っている。

 ここまで政治的ではないにしても、現在の空気へのなじめなさから、過去を嗜好した表現に向かう。不健康でネガティヴなフィクションやイメージをあらかじめ自分の鎧にすることで、ネガティヴな現実から距離を置く。現在の現実に対するある種の武器として過去や不健康を使う。そうした感覚は、『鬱フェス』のアーティストの多くにかいま見られた。アーバンギャルドからは、昨秋にキーボードの谷地村啓が脱退したのに続き、今年10月4日のステージを最後に、ドラムの鍵山喬一が脱退するという報告もあった。そういうマジ鬱な出来事をはね返すためにも、このフェスのような武器としての“鬱”は有効なのである。日焼けする夏フェスとは違う、日影のエンタテインメントを求める人々は、私を含め、いつの時代にもいる。それを確認できたイベントだった。

20140925-utufes6.JPG

 

 だから、当日の出演者たちが並んだステージで、アーバンギャルドが「君の病気は治らない だけど僕らは生きてく」と繰り返す「ももいろクロニクル」で締めくくったのは、最高に“盛り下がる”大団円だった。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる