竹内まりやのアルバム大記録達成と、2010年代のタイアップ考

 テレビドラマのタイアップでシングルが売れる時代はとっくに終焉を迎えていますし、ましてや映画のタイアップなんて実は90年代においてもごく限られた成功例しかありませんでした。これは山下達郎の近年の作品、あるいはサザンオールスターズや椎名林檎の作品にも言えることですが、それらの非常にブランド力のあるアーティストたちにとって、もはやタイアップは曲を売るための手段ではなく、新しい曲を作るための口実に過ぎないと言ってもいいでしょう。音楽、映画、テレビドラマに精通していると一応自負をしている一人のジャーナリストとしてはっきり言うなら、彼らの音楽がタイアップしている多くの映画やテレビドラマの作品としてのクオリティは、彼らの音楽そのもののクオリティに見合うようなものではないことが多いのです。もちろん今の時代にも優れた日本映画は存在しますが、そうした映画の多くは彼らのようなビッグネームのタイアップの俎上に上がることがないような作品がほとんど。テレビドラマに関して言うなら、最近はヒットしたドラマ(『半沢直樹』『HERO』など)ほど、書き下ろしの歌入りテーマソングを持たないというドラスティクな変化が起こりつつあります。ちょっと皮肉めいた言い方になってしまいますが、竹内まりやの『TRAD』は、そうした広告代理店、テレビ局、芸能事務所主導のタイアップソングのトラディショナルな在り方がギリギリ通用していた時代の、最後の徒花のような作品と言えるかもしれません。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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