HAPPYはヤバい「ファンタジー」を描けるバンドだ――原宿フリーライブレポ

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 ライブ本編はアルバム10曲を完奏して終了。アンコールに応えてさらに2曲やったが、「ここでアンコールに応えなかったら本当にStone Rosesみたいでクールだったのに!」と思ったのは、会場では自分だけだったかもしれない。ただ、結局最後にこの日二回目の「Lift This Weight」を演ったことからもわかるように、今のところ彼らにとって最大のキラーチューンがこの曲で、もちろんいい曲なんだけど、それを超える曲(それこそ、その曲を演奏したらアンコールなんて誰も要求しなくなるほど圧倒的なやつ)が1曲か2曲生まれたら、ライブバンドとしてまったく別の次元にいけるんじゃないかと妄想せずにはいられなかった。

 それと、アルバムがセルフ・プロデュースであったように、彼らが自分たちだけでバンドの未来を切りひらいていくことを重視していることは共感できるし、賞賛すべきことだとも思うが、特にライブの音響面において、同時代のバンドを問答無用に置き去りにしてしまうような技術的なイノベーションが欲しいと思った。たとえば、本格的なダブサウンドを日本の音楽シーンのメインストリームに叩き付けたかつてのフィッシュマンズのように。あるいは、ダンスミュージックの低音を手にした近年のサカナクションのように。それは個人的な要望というだけではなく、何よりも彼らの楽曲そのものが、そのような日本の音楽シーンにおける画期的な音響、もっと具体的に言えば本物のサイケデリックな音響を欲していると感じた。

 HAPPYはステージに上がる時のSEにPerrey & Kingsleyの「Baroque Hoedown」を用いている。ディズニーランドのエレクトリカル・パレードでお馴染みのあの曲だ。ファーストアルバムのレコーディング時には、ディズニーの『ファンタジア』の映像を流しながら5人で音を鳴らしていたというエピソードも聞いたことがある。ここで言うディズニーとは、もちろん『アナ雪』や『マレフィセント』のディズニーではなく、ドープで(あえてそのまんま言っちゃうけど)ドラッギーな、あの時代のファンタジックなディズニーだ。「ファンタジー」という言葉は、SEKAI NO OWARIやきゃりーぱみゅぱみゅをはじめとして、現在の日本の音楽シーンにおける最重要キーワードとなっている。そんな中、HAPPYは音楽だけの力で、それとはまったく異なる種類のもっとヤバい「ファンタジー」を描くことができるバンドなんじゃないか。自分は、そこまでの期待を彼らに寄せている。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

■HAPPY『Free HAPPY “HELLO”』 セットリスト(8月6日)
01:Magic
02:Run Run Run
03:Time Will Go On
04:Lucy
05:Wake Up
06:Pity Xmas
07:Lift This Weight
08:Cycle of Life
09:Color
10:Win Key Gun

EN
11:Cation
12:Lift This Weight

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