the brilliant greenの音楽はなぜ色褪せないのか 新作アルバムに見る「楽曲の強度」

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 the brilliant greenが帰ってきた。4年ぶりに届けられたアルバム『THE SWINGIN’ SIXTIES』は60’sテイストのセルフカバー。決して自ら進んで取り組んだものではなく、当時の形がベストだったということ、オリジナルと比較されることなどに躊躇し、リリースを止めることも考えていたと赤裸々に語る川瀬智子だったが、過去作の焼き直しではなく、アコースティック楽器を軸とし、別のベクトルに持って行くことで、歌としての普遍性、楽曲の強度を再認識させられるものに仕上がっている。

 シンプルなアレンジで歌を聴かせる、というよりも、まず歌があり、歌に寄りそうような楽器陣のアレンジという印象を受ける。楽曲とメロディーの良さはもちろん、陰があり、儚くも艶っぽく、時に幼くも聴こえる、倍音成分多めの心地よい歌声と表現力に溢れた川瀬智子という天性のボーカリストの魅力を改めて実感する。徹底的に臨場感にこだわった音像は目の前でセッションが行われているかのようでもある。

 「冷たい花」「Stand by me」で聴けるマンドリン、「そのスピードで」のコンガ、「There will be love there~愛のある場所~」のドラム、「長いため息のように」のリズムループ……一見チープに聴こえるかもしれない。多くの楽曲で核となっているアコースティックギターだって、もっとふくよかな音で録ることも可能なはずだ。だが、これがブリグリがこだわった60’sサウンドである。近年はレトロやヴィンテージサウンドを目指し、表現しているアーティストやバンドも多いが、それらは疑似やイメージで、現代風に解釈されていることも少なくない。そうした中で今作はインパクトや第一印象は薄く、物足り無さを感じてしまうアレンジやサウンドなのかも知れない。だが、繰り返し聴けば聴くほど、そこから滲み出てくる深みを感じとることができるだろう。アマチュア時代に奥田俊作と松井亮が、ローリング・ストーンズのカバー「As Tears Go By」を歌う川瀬を見初めたことがブリグリ結成のきっかけである。そんなバンドの始まりをも思い浮かべることが出来る作風になっている。

 ブリグリは90年代に台頭したブリットポップ・ムーブメントに色濃く影響を受けたバンドだ。日本でもそういったUKサウンドの影響下にあるバンドは当時多くいたが、セールス的に成功を収めたという部分でブリグリは抜きん出ている。シングルチャートを賑わせながら、アルバム楽曲の半分以上は英詞といったこだわりからも、いかに洋楽を目指していたことが解る。そして、アルバム毎に独自の路線を追求してきたバンドでもあった。1st『the brilliant green』(1998年)では本格洋楽サウンドを突き詰めた質感とアンニュイなボーカルが妙な陰を孕み、『TERRA2001』(1999年)でカラフルなキャッチーさを。『LosAngels』(2001年)でサウンドが激変したのはギターがセミアコースティックからソリッドギターに変わったことが大きいだろう。図太く、パワフルな印象を受け、1stの陰と2ndの陽の部分を見事に調和した。『THE WINTER ALBUM』(2002年)はTommyとしてのソロ活動で培った、エレクトロ要素も加味され、音楽性の幅広さを見せた。

機材マニアぶりの伝わるアートワーク

 スタイリストに委ねることなく、衣装や小物、そしてミュージックビデオ編集まで自ら手掛けるセンスが注目されることの多い川瀬。同時にサウンド面では徹底的にアナログ録音にこだわり、外出を好まない性格もあって、レコーディングに没頭できる自宅スタジオを建設した経緯もあり、機材マニアな顔を持つ。今や貴重なOLD NEVEのコンソールなど、プライベートスタジオという枠を超えた壮観な本格スタジオは、もちろんサウンド面を支える奥田の影響下もあるが、今作のアートワーク周りでも随所にそのマニアっぷりを垣間みることが出来る。手にするアコースティックギター、ギブソンJ-160Eはジョン・レノンの愛器として有名だが、アルバムの作風と共にビートルズ「Strawberry Fields Forever」あたりを思いだした人でも多いのではないだろうか。VOX製ギターアンプ・Escortや、BUSH製トランジスタラジオ・TR82、というイギリスの60年代の機材、ギブソンのマエストロ・リズムキングという希少価値の高いリズムマシン(今作では「You & I」でその音を聴くことが出来る)までもが、ぬいぐるみと一緒にベッドの上におもむろに置かれている。今までもギターを始めとする器材類が登場することは多かったが、そのほとんどが女子目線でのカワイイものという観点だけでなく、さりげなくマニアを唸らせるヴィンテージ機材という抜かりのなさである。

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