大橋純子にとっての“シティポップ”とは? デビュー40周年記念ライブを徹底レポート

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左から、土屋潔(g)、和田春彦(key)、六川昌彦(b)、大橋純子(vo)、山下由紀子(ch)、佐藤ひろ子(ch)、後藤輝夫(sax/per)。

 最後にちょっとだけ個人的な回想をすると、1965年生まれの僕は多分に漏れず、「たそがれマイ・ラブ」をテレビのヒット番組で見て、大橋純子という歌手を知った。それ以前の曲も耳にしていておかしくないはずなのだが、どうも聞いた記憶がない。もんたよしのりとのデュエット「夏女ソニア」(83年)くらいまでは折々に、その姿と歌声に接する機会があったが、以後あまり音沙汰が聞こえなくなる。90年代以降は活動の中心がライブに移ったからだろう。

「たそがれマイ・ラブ」「サファリ・ナイト」「シルエット・ロマンス」あたりがもっともよくテレビから聞こえてきた曲だと思うが、これらを総合しても、シティポップというイメージはなかなか出てこないのではないか。70年代後半から歌謡曲とニューミュージックの融合が進んでいたこともあり、当時の印象は「異様に歌唱力のあるソウルフルなシンガーが、メロディアスな歌謡曲を歌っている」というものだった。そもそもシティポップという呼称自体、それほど一般的ではなかった記憶がある。後年ベスト盤などで代表曲は大体聞いたが、その頃の印象に引っ張られたせいもあったのだろう、シティポップかどうかなんて考えもしなかった(ジャンルを区別するために人は音楽を聞いているわけではない!)。

 そんなわけで、いただいたプレス資料に「シティ・ポップス」という文字が踊っているのを見て、若干奇異の念を抱いた。

 今回そのあたりを意識して新アルバムとスペシャルライブを聞き、ようやく大橋のいう「シティ・ポップス」の輪郭が把握できた気がしたのだが、それは要するに、70年代という混沌の時代に登場が要請された、ミクスチャー、クロスオーバー、フュージョンとしてのポップスなのだ。

 大橋はたぶん、ジャニス・ジョプリンとキャロル・キングという大きく隔たった個性を、あたかも隔たりなどないかのごとく受け留めてきた人だったのだろう。だからこそ、現在からすると違和感のある楽曲も「シティ・ポップス」として拾い上げることになったのだろう。M1「Welcome to Music Land」からアンコールの「You've got a friend」へと至る流れは、そうした受容の歴史を雄弁に物語っているように思えた。

■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

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