細野晴臣が“音楽の謎”を語る「説明できない衝撃を受けると、やってみたいと思う」

「自分が『歌えない』ことがある意味で大事なんです」

――たとえば細野さんとも近い小山田圭吾さんが、オリジナル・ラヴの田島貴男さんみたいなヴォーカリストだったら、今のコーネリアスみたいな音楽はやってなかったかもしれない。

細野:そうそう。そうなんですよ。歌えちゃうとシンガーですね。もはやミュージシャンじゃなくて、「歌手」という特別な存在になっちゃうんです。山下達郎、小田和正、矢沢永吉とか、みなさん特別な歌手ですよね。

――ああ、なるほど。

細野:で、それはある種のアスリート系になるんですよ。

――アスリート系!

細野:だから声がすごく大事になる。アスリートが身体に気を遣うように、すごく喉の調子に気を遣うようになる。とても個性的な歌手の方とそういう話をしていて、自己管理にとても厳しいと聞き、ああ、自分はバンドマンでラクで良かったなと(笑)。だから逆に自分が「歌えない」ことがある意味で大事なんですよ。歌えないことで、また違うことがやれるようになる。それを自覚することで、自分の道ができる。

――でもここ最近の細野さんはヴォーカリストとして…。

細野:ちょっと歌うことが好きになってきた(笑)。

細野晴臣/The House of Blue Lights

――『HoSoNoVa』が『HOSONO HOUSE』以来の歌ものアルバムで、最新作の『Heavenly Music』(2013年)も同じ路線ですね。なにか心境が変わってきたところもあるんでしょうか。

細野:かつてはほんとに歌うのが好きじゃなくて、ライヴも全然好きじゃなかったんですけど、あるきっかけでライヴを始めたら、ちょっとおもしろいかな、と思いだした。「自分が歌える曲をうたえばいいんだ」と気づいたんですね。若い頃は無理してたんですよ。自分で作った曲にもかかわらず無理してた。高い声出さなきゃとか、どっかで思ってたりね。でも、無理しないで自分がこのまんまの声でうたえる曲は楽しいなと、やっと思い始めたのが、今に至るっていうか。

――自分の思い描く理想の音楽を作るにあたって、自分のヴォーカルでは無理だから、誰かほかの人に頼むとか、そういう発想はある意味でプロデューサー的だと思うんです。

細野:ありますね。でも最近はないですねえ。

――そういう発想がなくなった。

細野:ていうか依頼がないんですよ(笑)。はははっ! でも唯一、石川さんから頼まれて。

――石川さゆりさん?

細野:こないだ曲を書いたけど…楽しかったですね。いい曲ができたけど自分じゃ歌えないんですよ(笑)。人に曲を書くの好きなんですけどね。

――職業作家としては80年代には松田聖子とかいろんなアイドルに曲を書かれてましたね。そのころのアイドル事情と今のアイドル事情を比較して、なにか思うところはありますか。

細野:いやあ…特にないですね。何も知らないんです。最近の日本の音楽状況とか、みんなが知ってることを知らないんですよ。

――でもみんなが知らないことを知ってる。

細野:そうそう(笑)。だから…僕はみんなと無関係!(笑)

――でも、そこまで時流というか流行から自分を遮断してしまうのは、やはり相当に腹が座ってないと…。

細野:(笑)腹が座ってるというより、単に老いただけ。

――でも時流や時代に乗り遅れちゃうんじゃないかという恐れは、特に流行作家と言われる人たちは常に持っているのではないかと。

細野:ああ、なるほどね。僕はそういうの無縁ですね。だから…何をやっても「10年早い」って言われてたんですよ。それがコンプレックスだった(笑)。

――時代に先駆けすぎてると 。

細野:ええ。10年早いのは問題だなあ、ちょうどいい時にやりたいんだけどって(笑)。なので今はそういうことは考えないですね。自分の好きなものをやるだけで。

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