沖野修也が明かす“1万円でアナログ販売”提案の真意「録音物にはライブとは違う価値がある」

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DJという立場から、音源の重要性を唱える沖野修也氏。

ーー書籍の世界では1~2万円する学術書もありますが、音楽業界はアルバムが3,000円前後で当たり前のように皆が同じ値段で販売し、購入してきました。そもそも、なぜ音楽のCDには価格の弾力性がなかったのだと考えますか。

沖野:根拠のない慣習でしょう。最近ではアルバムの価格が2,000円未満、洋楽に至っては1,000円前後で買えてしまう商品もある。それがヒットすると業界は後追いをする。成功例へ一気に追随することが、音楽業界の“傾向”ですが、そこには決して絶対的なルールはないはずなんです。

ーー最近では、CDにおまけが付いている場合もあって、例えばアイドルのCDでは5,000円前後の限定盤なども増えたりして、だんだん価格の弾力化が進んでいると思います。でも、沖野さんのような「お金のかかった音楽」の値段を高くすることに対しては、まだまだ抵抗感が強いのかもしれません。

沖野:そうですね。あと、お金をかけても、枚数が捌ければ単価は下がると思うんですよ。例えば、「Destiny」のリプレイド盤「DESTINY replayed by ROOT SOUL」は、ダフト・パンクの1/100の予算で作っているんです。僕のロジックでいけば、ダフト・パンクが100倍の制作費でつくっているからといって、100倍の値段で売らないじゃないですか。彼らは売れることを前提にお金をかけているから、リクープできる。でも、僕の場合はたとえダフト・パンクの1/100の制作費でも、おそらくセールスはダフト・パンクの1/1000レベルになってしまうから、リクープできないんですよ。

 つまり、かけるコストの問題プラス、予想される販売枚数が関係してくる。量販店で売られているファスト・ファッションと呼ばれるものは、安価な代わりに量を売るから成立している。でもその分、工場の確保や従業員の雇用、輸送費など莫大なコストもかかっているわけです。反対に、手工業でやってるテーラーは、設備投資をしない代わりに、その対価としてある程度の高額な価格で提供する。僕の抱えている問題は、かけたコストに対する販売数が少ない、ということなんです。

ーーなるほど。そうなると、差し当たって現実的なところでは、値段を上げていくことでペイしていく、ということですね。

沖野:それと単純に制作費を下げること。今回のリプレイド盤は、歌以外はすべて録り直したんですが、オリジナル・アルバムの1/5の予算で制作しているんです。今の時代は悪いことだけではなく、昔はスタジオでしかできなかった作業が、パソコン1台で可能になった、というメリットもあります。レコーディングは『The Room』(沖野氏がプロデュースしているイベント・スペース。通称“タマリバ”)で行い、スタジオすら使っていません。ファースト・アルバムと比較すれば、じつに制作費は1/10に圧縮できています。ただ、オリジナル盤でリクープできていないので、リプレイド盤では若干価格を上げて回収しないといけないんですけどね(笑)。

ーーバンドの世界では、CDの売り上げをあてにせず、日本中のライブハウスを廻って稼ぐ、というスタイルが当たり前になってきています。しかし沖野さんのような音楽家の場合、レコーディング芸術としての“音源”の存在意義も大きいのではないかと。

沖野:音源を無料配布、もしくは無料ダウンロードなどにし、ライブで収益をあげるという人も多い時代ですが、それも一定の人気がないと成立はしません。ドサ回りしてる人でも、ある程度の人気や認知があるからドサ回りできるわけです。それ以前の若手ともなれば、都内でも地方でも地元でも、まったくライブができないし、呼ばれることもない。それは、プロモーターやレコード会社だけの問題ではなく、リスナーも使うお金を最小限に抑えたいので、話題になっている人を厳選しているわけです。見ず知らずの人からフライヤーもらい、観たことも聞いたこともないバンドのライブに行くか? となったら、行かないですよね。なので、僕は音源をタダにしてライブで地方を回ればいい、という考え方には懐疑的です。

 また、録音物は名刺代わりで、音楽本来の生演奏にこそ価値がある、という考え方にも否定的です。DJカルチャー以降、録音芸術としての音楽はライブで再現することは非常に困難なんですよ。ゆえに、音源を無料にしてしまうと、ライブをやらない人はまったく収入がなくなってしまう。かつてはそうだったかもしれないですけど、「録音されたものに価値がない」という考えは、いまの時代にはあてはまらない。

 例えば、ヒップホップ・ミュージックを生ドラムで再現して……というのは、別の価値を見いだすことはできます。でも、レコーディングの質感を出せるかといったら、それは出せないと思うんです。ライブはライブで素晴らしい、録音物にもライブとは違う価値と素晴らしさがある。それは分けて考えないと。どっちが良くてどっちが悪い、という問題じゃないと思うんです。

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