ストーンズは“ロックの果て”まで来た――東京公演を期に振り返るバンドの功績

 こうしたストーンズの歴史において、あらゆる面で転換点になったのは、80年代ではないかと考える。

 まず、1981年のアメリカ・ツアーを収めた映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』では、超満員に埋まったスタジアムのポップなステージセットの中で躍動するバンドの姿が描かれている。当時は、日本でも巨大会場でのコンサートが行われつつあった時期で、この映画を観て「野外の球場ライヴってこんななんだ!」と思った音楽ファンは多かっただろう。

映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』DVD予告映像

 この時期、とくに対外的な面で重要だったのはミック・ジャガーだと思う。運動量の多いスタジアム公演を成功させるため、彼は体力を維持するようジョギングをしているとか、遠くのお客さんも楽しませるために股間に詰め物を入れているという話まで伝わってきた。特筆すべきはこの前者、健康面のことだ。その頃40代を目前に控え、すでに「終わったバンド」とか「オッサンのくせにロックやってる」みたいな言われ方をして、しかも一時期はクスリにまみれていたストーンズが、ライヴのために身体に気をつけているという事実は驚きを持って受け取られたものだ。今やミュージシャンが「ジムで鍛えてる」とか「ジョギングやってます」「ツーリングが趣味です」なんて口にしても意外ではないが、そうした流れは当時のミックの姿勢からの影響が大きいはずである。そう、ロックの退廃的なイメージを広く植え付けたのもストーンズだが、中年になったアーティストが体力を保持する大切さを見せたのもストーンズだったのだ。

 もうひとつ、ミックで注目すべきは、ソロ活動である。キースとの仲違いがしきりにささやかれた80年代半ば、ミックは当時の最先鋭の音楽を取り入れて、ソロ・アルバムを制作。それは確かにストーンズでは実現しえないサウンドだったし、彼が古典的なロックンロール・バンドに飽きていた節もあっただろう。ただ、そのソロ作はストーンズほど歓迎されるような結果には至らず、2枚目のソロ作のあとに行われたミックのコンサート・ツアーのセットリストはなんと3分の2がストーンズ・ナンバーという極端な構成になる。人気ロック・バンドのヴォーカリストのソロ活動はミック以前にもあったが、いかに才能とスター性のあるフロントマンがピンでやっても、そううまくいくものではないことを世界レベルで示した事例としては、この時のミックが一番明確だろう。

ミック・ジャガー「ジャスト・アナザー・ナイト」

 ミックはそのソロでの公演で、1988年に初の来日を果たす。これが布石となり、1990年2月、ついにストーンズの日本公演が実現。ストーンズがお茶の間レベルで知られるようになったのは、この時からと言っていい。当時としては破格の1万円というチケット料金も話題になったし、森高千里の「臭いものにはフタをしろ!!」(1990年)はこの時の東京ドームでの計10回公演がひとつのきっかけに生まれた曲だ。そう、ストーンズはこんなふうにして歌謡ポップスにも影を落としてきたのである。

森高千里「臭いものにはフタをしろ!!」

 その初来日から24年、結成からは52年。今回のドームを観て、ストーンズは歳をとってもロックすることの、もう果ての果てまで来ていることを実感した。驚くべきは、彼らは今までに一度も解散したことがないという事実である。間には解散寸前の時期もあったが、その危機をくぐり抜け、メンバーが70代を迎えるところまで来たのだ。

 この事実はとてつもなく大きい。たとえば日本のバンドでもエレファントカシマシや怒髪天が結成30周年を超えているし、仲井戸や遠藤賢司のように還暦を超えてもギターを鳴らし、叫んでいる人もいる。長らく続いているバンドの先にはローリング・ストーンズがいて、歳をとってもロックし続ける者の前にはミックやキースがいるのだ。

 ……と、これだけ書いても、全然まだ書き足りない。「あのこと書いてないぞ」「このネタはどうした」という声も聞こえてきそうだけど、そういうツッコミ合いまで含めてストーンズだと、今回とても痛感している。ほんとにデカいバンドだ。今は久々にロック喫茶にでも行って、ガヤガヤとストーンズ談義でもしたい気分だ。できればそこに若い音楽ファンの子もいてくれたら、超うれしいんだけど。

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT's IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

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