板野友美、最新SGチャートにランクイン トラウマ的歌詞で「浜崎あゆみの後継者」となる?

 おそらく多くの人が気付いているように、板野友美が持っているのは「浜崎あゆみの正統的後継者」として感性なのだろう。考えてみれば、ギャル文化と「生きづらさ」というのは切っても切れない関係性を持つものだった。90年代末から00年代前半にかけては「居場所がなかった」と過去のトラウマを歌った浜崎あゆみがメガセールスを記録し、その感性は、『小悪魔ageha』や数々のケータイ小説にも引き継がれている。

 一方、00年代後半には西野カナや加藤ミリヤなどの女性シンガーが、着うた世代の女子高生たちの支持を集めヒットを記録している。社会学者の鈴木謙介によって「ギャル演歌」と名付けられたこれらのシンガーもいわゆるギャル文化の系譜に属するものだが、実は彼女たちは「浜崎あゆみの後継者」ではない。これらのシンガーのヒット曲に多く見られる特徴は、失恋や相手との物理的な距離感(「会いたい」「会えない」問題)、女同士の友情など、他者との関係性を中心に歌っているということ。アイデンティティの不安と居心地の悪さを歌っていた、実はセカイ系的な側面を持つ「初期浜崎あゆみ的感性」は、彼女たちにはあまり見られないわけだ。一方、フォトショップの加工で仮面をイメージさせるジャケット写真を配した今回の板野友美が打ち出したのは、まさに「アイデンティティ不安」の感性である。歌詞の内容もトラウマと傷跡を強く打ち出している。

 博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平は、著書『ヤンキー経済』で、2010年代の若者文化をかつての不良文化と違う「マイルドヤンキー」と定義している。その上で、かつてのギャル/ヤンキー文化のテイストを引き継ぐ「悪羅悪羅系残存ヤンキー」と、より不良性が薄まり地元志向が強く幼馴染みの友達とのコミュニティを重視する「ダラダラ系地元族」に傾向がわかれるのだと分析している。彼の分析を援用すると、板野友美のターゲットは明らかに「残存ヤンキー」に属するはずだ。一方、相手との距離感を強く意識する西野カナや加藤ミリヤは「地元族」の感性に訴えかける。同じギャル文化にも違いが見てとれるわけである。

 こうして板野友美は、浜崎あゆみやケータイ小説が象徴していた「ギャルの病み/闇」という00年代の物語の後継者となった。果たしてその試みは成功するだろうか。興味深く見守りたい。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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