変わりゆくテレビの音楽番組 トーク中心からライブパート重視の流れへ

 テレビから音楽番組が消えていく中、その代わりとなる場所をミュージシャンはYoutubeやニコニコ動画などの動画サイトに作った。特にニコニコ動画の公式チャンネルは安価でファンに確実にリーチできる媒体として若手ミュージシャンのみならず、これまでテレビを主戦場としてきた大御所ミュージシャンまで幅広く人気を集めている。ニコニコ動画の公式チャンネルにも様々な種類があり、ラジオのようにバンドメンバーが語り合う様子を流すものもあれば、スタジオライブを中継するもの、過去から現在に至るPVをミュージシャン本人が振り返るものまで実に多彩だ。また制作スタッフにかつて(あるいは現在も)テレビで番組作りを担ってきた人間が関わっているのも見逃せない。動画サイト普及初期のような「ダダ漏れ」番組はほとんどなく、今やテレビとも比較しても遜色ないクオリティのものが並ぶようになってきている。テレビの音楽番組、特に「トーク+ライブ(PV)番組」のようなゲストトークを売りにした番組は今後もネットに代替されていくものと思われる(ゲスト扱いではなく本人たちが語る、という形で)。

 では今後、テレビの音楽番組はどのようになっていくのだろうか。ひとつのトレンドとして浮かび上がるのがライブパートを重視した番組作りである。昨年の『FNS歌謡祭』は大変に盛り上がったし、『僕らの音楽』や『ミュージックフェア』は相変わらず好調だ。また年末の『ミュージックステーション スーパーライブ』も好視聴率を記録している。日テレの『LIVE MONSTER』も「ライブでしか味わえないMONSTER達による極上のパフォーマンスを届ける」をコンセプトに良質なライブを放送している。TBSの『ライブB♪』に関しても同様だ。CDというモノの代わりにライブという体験を提供する、ミュージシャンの間で一般化した手法と同様のことが音楽番組にも言えるようになってきている。

 またトークを主体とした番組に関しても、これまでにはない新しい切り口のものが徐々に登場してきている。中居正広とリリー・フランキーがMCを務める『Sound Room』や坂本龍一による音楽の学校『スコラ』、音楽プロデューサー亀田誠治がJ-POPのヒット曲に隠された音楽の秘密を解き明かす『亀田音楽専門学校』など、以前の音楽トーク番組に比べ、より「音楽を深堀り」した番組が増え始めているのも最近の特徴といえる。ゴールデンでマスに向けた華やかな音楽番組というのは確かに減ったが、深夜枠を中心に新しい試みの音楽番組が徐々に増えつつあるのは嬉しい兆しだ。

 おそらく将来的には「テレビにしかできないこと」と「ネットでも代替できること」が今以上に分離され、テレビの音楽番組は前者に特化していくものと思われる。きっとそこでは対象がマスかニッチかということではなく、たとえばテレビのもつ技術力や取材力など、彼らの強みを活かせるコンテンツのみ生き残っていくはずだ。今後どのような番組が生み出され、あるいは進化を遂げていくのか。音楽ファンかつテレビ好きのひとりとして、各局の取り組みに期待したい。
(文=北濱信哉)

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