ザ・スミスの後継者はなぜ生まれない? 伝説的UKバンドの「特異な音楽性」に迫る

――ヤマジさんは3枚目のシングル「What Difference Does It Make」(84年1月)をお好きな曲に挙げてますね。

The Smiths「What Difference Does It Make (TOTP)(1984)」『The Smiths』収録

ヤマジ:ちょっとロックンロールっぽいところがあって、アガるよね。

筒井:ちゃんとテーマのリフがあって、モリッシーの独特のメロディがあって。

ヤマジ:どっちを先に作ったんだろう。

筒井:どうだろう。あれはリフが先かもしれないですね。

――一番最初にモリッシーとジョニーが出会った時って、モリッシーの詩にジョニーが曲をつけることで始まったんですよね。

ヤマジ:歌メロってジョニーが考えるの?

筒井:いや、モリッシーだと思います。

ヤマジ:なんか小節がずれたような…。

筒井:そうですね(笑)。

ヤマジ:曲の構成も変だし。

筒井:「William, It Was Really Nothing」(84年8月、5枚目のシングル)って曲があるじゃないですか。あの曲って、A-B-ブリッジ-サビ-サビ-サビーサビ-サビで終わっていくんです。普通だとAメロがもう一回来たり、Bメロがもう一回来て、ギターソロが来て、サビにいって…となるんですけど、構成がめちゃくちゃというか(笑)。

The Smiths「William, It Was Really Nothing (1984)」『Hatful of Hollow』収録

――モリッシーの歌詞の都合でそうなってるということですか。

筒井:はい、たぶんそうだと思います。そういう変な曲を、60年代のポップスみたいに3ヶ月に一回シングルで出してましたからね。

――譜割りの感覚も少し変わってますね。字余り気味というか。

ヤマジ:どの曲も、メロディのかたまりがあって、その終わり方が変な感じだよね。

筒井:そうですね。

ヤマジ:変なふうに伸びてるよね。

筒井:(モリッシーは)楽器を弾けない人なので、そういう概念がまったくない。でもそれが逆に強みだったんじゃないかと思います。曲の作り方はいろんなパターンがあったみたいですけど、スタジオに入ってバンド全員でアレンジした、という感じはしない。モリッシーとジョニーだけのやりとりで作ってる感じ。「Shoplifters of the World Unite」って曲がありますよね。最後の方が特にそうなんですけど、歌がその部分だけ16ノリのハネる感じのリズムになる。歌詞を詰めるっていうか、言いたいことを無理やり曲に詰め込むので、それが字余りっぽい独特なノリにつながるんです。モリッシーにとってエイトとか16ノリとか関係ないから。

The Smiths「Shoplifters Of The World Unite(1987)」

――歌詞を曲に載せるのに、リズムや音符に合わせて言葉を調節するんじゃなく、関係なく自分の言いたいことを歌ってたら、こうなったと。

筒井:それが彼のオリジナルというか、ほかにない個性に、無意識のうちになってたんでしょうね。

ヤマジ 吉田拓郎に近いものがあるね!(笑)

――それはモリッシーが音楽の専門知識があまりないからできる、ということですか?

筒井:そういう固定観念がないんでしょうね。

ヤマジ:誰かに影響されてそうなったって感じでもないもんね。

筒井:そうですね。そこがオリジナルなのかなあって。

――一方でジョニー・マーのセンスはきわめて幅広くて、しかも基本に忠実な。

筒井:はい、それをバックグラウンドにして、オリジナルなものにしてますね。

――音楽的な裏付けはすごくちゃんとしてますよね。そこにモリッシーの、ある意味で音楽的なセオリーを無視したようなセンスが加わったのが、スミスの音楽であると。

筒井:はい、そう思います。

――加えてモリッシーのヴォーカルは独特な情感がありますね。

筒井:なんかこう…切ないですよね、スミスの音楽って。それは彼の声がもたらすものが大きいと思います。R.E.M.のマイケル・スタイプもそうですけど、なんかちょと震えるような声をしていて、そこが少し寂しかったり、そういう感情を呼び起こす。感情に訴える、余韻を残せるヴォーカリストのひとりなんじゃないかなって思います。

――R.E.M.とスミスって、一時よく比較されてたと思うんですが、ほかにどういう共通点がありますか。

筒井:弱者の味方、じゃないですけど、そういう視点。サウンド的には、どちらもアルペジオ主体という印象はありますね。

――R.E.M.のほうがロックっぽいというか、荒々しい感じはありますね。

筒井:そうですね。モリッシーもそうですが、マイケル・スタイプの歌があまりに突出していて。あれを真似できる人はいない。両者の違いは、R.E.M.は世界的に成功したけど、スミスはできなかった。なぜかといえば、バンドが続かなかったということと、メジャーとインディペンデントの音の中間だったところが中途半端だったのかなあ…。

ヤマジ:あまり大きいところでやりそうな音じゃないよね。

筒井:はい。そこが逆に、熱烈なファンを惹きつけるんだと思いますけど、もしビルボードのトップ10に入るような音楽だったら、そうはならなかったかもしれない。クイーンぐらいまでなりたかったとモリッシーは言ってましたけど、実際にそうなる前に散ってしまったから…。

――美しい?

筒井:美しくみんなが語るのかなあ、と。

――大きいとこでやる音じゃない、というのは?

ヤマジ:ライヴの映像を見ると、すごい(会場の音響が)デッドな感じが似合う感じの音だな、と。

筒井:ああ、わかります。

ヤマジ:ジョニー・マーのアルペジオとか。

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