今なぜ「ワン・モア・タイム」? 自動車CMソングにダフト・パンクの有名曲が抜擢されたワケ

 2013年12月下旬から、大手自動車メーカー・スズキの「ワゴンRスティングレー」のCMソングとして、ダフト・パンクの代表曲「ワン・モア・タイム」が抜擢されている。十年以上前の曲がなぜ今採用されるのだろうか。そこにはどんな狙いがあるのだろうか。

 自動車メーカーのCMといえば、疾走感と安定感のある「大人な」音楽が採用されているイメージ。

 3年ほど前に、アメリカのエレクトロ・ポップ・バンド、パッション・ピットの当時の大ヒット曲「アイズ・アズ・キャンドルズ」が、日産の「PURE DRIVE」のCMソングとして採用されたのに、驚いた人もいるかもしれない。確かに大ヒットした曲ではあったものの、ボーカルが双極性障害をカミングアウトするなど、脆さも含んだサウンドだったからだ。というように単に担当者の趣味がリアルタイムに色濃く反映されたケースもあるのだろう。

 それとは違って、今回の「ワン・モア・タイム」は、ちょっとうがった見方をしてしまいたくなる、中途半端に「古い」選曲だ。

 「ワン・モア・タイム」は、1979年のエディー・ジョーンズの曲を一部だけサンプリングして作られた、2001年のヒット曲。この曲はメンバーのトーマ・バンガルテルも参加したStardustの、1998年のクラブ・ヒット曲「Music Sounds Better With You」の方法論の延長線上にある(チャカ・カーンのディスコ・サウンドをサンプリングし当時フレンチ・フィルター・ハウスと呼ばれ流行した。この頃フランスではMotorBassやPepe Bradockなどの雑多なダンス音楽が生産されていてコアなリスナーを楽しませてくれていた)。

 そしてボーカルを担当したのがハウス・ミュージック・プロデューサーのロマンソニー。彼は残念ながら去年の5月に亡くなってしまったが、1990年代には「ハウス界のプリンス」と呼べるような作風で異彩を放っていた。

 つまりこの曲はダフト・パンクとしては、数々のディスコ・サンプリングのヒット曲が多く生まれた1990年代、そして、やはり強烈な個性を放っていたロマンソニーが活躍した1990年代を総括した楽曲とも言えるだろう。

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