44年ぶり復活のザ・タイガースが見せたドラマ――再結成バンドが輝く時とは

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6人が手を上げると、会場は温かい拍手に包まれた。

 たとえばあなたは、自分が中高生の頃に大好きだったバンドのライヴって、その当時リアルタイムでは案外と見てなかったりしないだろうか? チケットの争奪戦に勝てなかったり、経済的、あるいは地理的な理由もあって、お気に入りのバンドは一番見たい時になかなか見れないものなのだ。そして、一度も生で見ないうちにバンドが解散してしまった……というケースは、実はものすごく多いはずである。再結成は、そうしたファンの青春時代の無念を晴らす場でもあるのだ。

 それに加え、当時はそこまででもなかったけど、あとからそのバンドを聴いて好きになったファン、解散後に知って興味を持った新参層など、ライヴ会場はけっこう入り乱れているように思う。タイガースのライヴに集まったのは、先述した涙をぬぐっていた女性をはじめ、40代から60代ぐらいがほとんどだった。しかしGS時代と大きく違うのが、女性ファンばかりだった当時に対し、今回は男性の客がかなりの割合を占めていたことだ。これもまた、時間の経過を感じさせることである。その意味でも、バンドの再結成は、聴く側にもドラマをもたらすのだ。

 そう、ドラマ。またしてもこの言葉を使ってしまったが、再結成バンドにはどうしてもドラマを感じずにはいられないのだ。

 実は、僕自身はバンドの再結成というものに、以前はあまり積極的な何かを感じることがなかった。若い頃にお互いの力を振り絞り、火花を散らしながらクリエイティヴィティのピークを見せたミュージシャンたち。それが全盛期を超え、情熱の形が変わり、やがて別れることを選んだはずなのに、それからすっかり年をとってもう1回集まっても刺激的なものなんか生み出せるわけがない。しかもシワも増え、ルックスも体型も変貌してしまった人間が、あの時を超えるような歌や演奏を聴かせてくれるわけがないじゃないか。そう考えていたからだ。

 そんな自分が考えを変えたのは、再結成バンドをいくつか見ているうちに、そんな年をとった同士であっても、彼・彼女たちはこうしてまた集まった……という事実の大きさのほうに強く感じ入ることがあったからだ。そもそも大人になると、自分と関わっている人間だとか責任を負っているものの数が、圧倒的に多くなる。若い頃には腐るほどあると思っていた自分の時間は、年をとるとものすごく限られてしまうのだ。再結成バンドのメンバーたちは、そうした万難を乗り越えてでも、その場に集まって、共に音を鳴らしているのである。

 このドラマ性は、バンドによって、またメンバー各々によっても、さまざまだろう。お金に困ったから再結成したバンドもいるかもしれない。今の仕事も忙しいけど、それでも昔の仲間とまた音楽を楽しみたいという、純粋な動機の人もいるかもしれない。あの頃ほどジャンプできない、でも今ならこういう弾き方もできるんだぜ、というプレイヤーだっているだろう。となれば、そうした事情まで想像して楽しむのもありだろう。何しろファンの側も、そこまで読み取れるだけの経験値を積んでいるのだから。

 ザ・タイガースの演奏には、それぞれのメンバーの円熟を感じさせる素晴らしさがあった。若い頃のようなエネルギーの爆発はなかったかもしれないけど、老境に入った男たちがエモーションのほとばしるさまを見せてくれたことも感動的だった。

 なお、今回のタイガースの東京ドーム公演の模様は、バンドの解散記念日である1月24日(金)の21:00~22:59、NHK BSプレミアムにてオンエアされる。

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT's IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

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