13歳のギャングスタ・ラッパーも登場ーー今、中高生ラップシーンが熱すぎる

 10代のラッパーたちが台頭し始めている。筆者が最初に驚かされたのは、2008年にリリースされたTWIGYのアルバム『baby’s choice』。SEEDAや鎮座DOPENESS、D.O、YOU THE ROCK☆といった手練れの名が客演クレジットに並ぶ中、1人の見慣れないラッパーがいた。Syzzzy Syzzza(シジー・シーザ)、弱冠15歳(当時)。 作品を聴くと、ただ話題性だけで彼をフックアップしたわけではないことは、す ぐにわかった。新世代が頭角を現すニュー・ジェネレーションといった惹句がピッタリとハマる事例であった。

 あれから6年近く。現在はそんな若い世代の活躍を目にする機会が如実に増えてきた。その顕著な例のひとつが『BAZOOKA!!! 高校生ラップ選手権』だ。 YouTubeにアップされている第1回~第4回までのPV数は著者が把握しているだけでも、350万再生を越えており、回を重ねるごとにその注目度は飛躍的に増している(第5回は2014年3月28日に新木場STUDIO COASTで開催)。

 このコンテンツは、ヒップホップのMCバトルにスポットを当てた、いわばラップの甲子園バージョンとも言えるものだが、じつに熱い。全国各地から集った高校生(出身地は神奈川県や大阪府が多い。シーンを形成している土地という意味でも出身地は興味深い)は、札付きのワルやアニメオタク、女子高生から元ひきこもりなどキャラクターが尖っているのも魅力で、それぞれが自身のバックボーンを活かしたラップで鎬を削る。ヒップホップに出会った経緯は様々だが、出演者のほとんどが地元の仲間とスキルを磨き合うコミュニティを持っており(Skypeでフリースタイル・バトルをするものもいる)、こういった本気でヒップホップに取り組む青春群像から、ラッパーである出演者の周りには、DJをやっているもの、ダンスをやっているものなどが存在し、独創的かつ総合的なヒップホップ・カルチャーが形成されているであろうことが容易に想像できる。

 しかし、こういった多くの視聴者を擁するメディアに登場する若者は、ある意味では実力、キャラクター性、運を備えた少数派とも言える。『高校生ラップ選手権』は、フリースタイルの実力で競い合うものだが、一概にフリースタイルが得意なアーティストがクオリティの高い楽曲(つまりレコーディング音源)を作りだすとは言い切れない面もある。さらに高校生という未成年である以上、年齢制限のあるクラブ・カルチャーに触れられない事実もあり、こうした彼らの作品はインターネットの動画共有サイトに投稿されて目にすることがほとんどだ(ニコニコ動画内「ニコラップ」が著名)。

 オリジナルのラップから、二次創作、トラック・メイカーの作品などじつに幅広い作品が投稿され、ユーザー同士のコラボなどまさに現代的なネット世代のコミュニケーション・ツールとして活用されているが、そんな ネット発で話題となったのが、2012年に『You Topia』でメジャー・デビューを飾った高校生ラッパーPAGEや、『IRONY』でm-floとのコラボが実現した女子高生ラッパー、daokoなどがいる。特に後者は、女子高生ならではのモラトリアムかつアイロニカルな視点で描いた文学的なリリックと、ちょっとホラーな世界観を確立 。彼女の最新作「GRAVITY」は、ハードコアなヒップホップとは一線を画した“文化系女子ラップ”的な内容となっており、その音楽的レンジの幅広さを堪能できるはずだ。

 ここまで高校生を中心に取り上げてきたが、もちろんその下の世代にも驚くべき才能がいる。昨年末に『HEAT』のPVをアップした神戸在住の14歳、Kiano Jonesはその最たる存在で、同曲での大人顔負けのギャングスタ・ラップは必見だ。そし て、世間に衝撃を与えたのが、昨年12歳にして『Young Forever』を発表したLIL KOHHだ。まだまだ風貌も声もあどけないが(当たり前だが)、「お金大好き お小遣い使いすぎ  駄菓子屋でお菓子を買う」というパンチラインをかます姿には風格すら漂う。その一方で、目一杯背伸びしている感覚が、かわいらしく、今後どのような 成長を遂げるのか楽しみだ。レースゲーム「湾岸ミッドナイト」が好きで(「湾岸」という曲も発表している)、将来の夢はF1レーサーと本人は語って いるので、とりあえず大きく育ってほしいと願うばかりだ。

Kiano Jones "HEAT" (prod. by KID FRESINO)
LIL KOHH - Young Forever Official Video

 こういったヒップホップ・カルチャーにおける若手の台頭には、もちろんシーンを牽引してきた先人たちの功績がある。アンダーグラウンド・シーンでの活動ももちろん大きいが、マスに媚びる“セルアウト”的な手法が好まれないシーンのなかで、Zeebraや宇多丸(RHYMESTER)といったトップMCたちがメディアに積極的に登場することが、一種の啓蒙となってきたことも忘れてはいけない。特 に『高校生ラップ選手権』で審査員も務めるZeebraは「俺は叩かれても構わないから、もっと多くの人にヒップホップを知ってほしい」という思いでテレビに出演しており、そういった結果、現在の若者たちはネットや地元のコミュニティなど様々なシーンで、自由にヒップホップを楽しんでいる。

 中高生がバンドに憧れ、当たり前のようにギターを買っていた時代を経て、今度はマイク一本でラップを始める。そんな日が実現しつつある。
(文=中西英雄)

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