「国民作家の地位は、宮崎駿から宮藤官九郎へ」中森明夫が論じる『あまちゃん』の震災描写

アベノミクスではなく、アマノミクスを!

――『あまちゃん』の内容についてもう一つ、最後に鈴鹿ひろ美が、影武者たる春子が歌っていた「潮騒のメモリー」を自分で歌うシーンがあり、これに感動したファンが多かったようです。こちらについてはどう捉えましたか?

中森:小泉今日子もそうですが、歌がうまいというより、ものすごく味がありますね。80年代には春子が影武者として歌い、才能ある少女がアイドルになれない、という悲劇を産んでしまった。しかし、そのおかげでアキという女の子が生まれたのも事実なんです。そのアキは東京で鈴鹿ひろ美の付き人になり、アイドルとして育てられます。つまりアキは鈴鹿ひろ美と天野春子という二人の母親を持って、2010年代のトップアイドルの女王位を継承する。これは小泉今日子と薬師丸ひろ子という80年代2大アイドルの女王位を継承する能年玲奈とパラレルです。

 鈴鹿ひろ美の歌うシーンがなぜあれだけ感動するかというのは、やはり歌詞を書き換えたからでしょう。東日本大震災があった中で、「三途の川のマーメイド」なんてひどい話です。しかし、鈴鹿ひろ美はそれを「三代前からマーメイド」と天野家の歌詞として、自分の歌声で歌い上げた。かつて自分がアイドル生命を抹殺したひとりの女性の人生を肯定してみせた。それが感動を呼んだのでしょう。

――なるほど。中森さんは、「間違った歴史を今から書き換えて肯定的なものにする」という行為は『あまちゃん』に限らず、現実にも必要だとしていますね。

中森:『あまちゃん』には、現実との異常なシンクロを感じるんです。サンミュージックの社長の死や、藤圭子と宇多田ヒカルの物語……特に宇多田ヒカルについては、母親が達成できなかった夢を娘が芸能界で実現したという意味でも、重なります。さらには、『あまちゃん』が放送された年に、東京オリンピックの開催が決まったこと。前回の東京オリンピックが開催されたのは1964年です。プロ野球で王貞治が55本の本塁打記録を達成した年でもある。今年はヤクルトスワローズのバレンティンがその記録を破りました。今年は1964年的なものが更新される年なんですよ。

 64年は『あまちゃん』の中でも重要な年です。元祖アイドルの夏ばっぱが「橋幸夫歌謡ショー」で一緒に歌った年でもある。また、現実では吉永小百合が映画『潮騒』に主演した年で、「潮騒のメモリー」はそのオマージュです。そして、能年玲奈は吉永小百合のように、国民的女優になった。

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左・岡島紳士氏/右・中森明夫氏

 夏ばっぱ、春子、アキという三世代の時代で、日本は終戦から経済復興を遂げ、世界に冠たる国になりました。アキちゃんならぬアベちゃん(安倍首相)も、このストーリーに重なります。おじいさんであるところの岸信介がアイドル(総理)になり、父の晋太郎さんはなれなくて、自分が再びアイドルになったというのも不思議な符合です。経済復興はけっこうだし、東京オリンピックで盛り上がるのもいい。ただ、かつての時代を反復するように日本はよくならないだろうし、いまだ解決していない原発事故の問題もある。やはりアベノミクスではなく、アマノミクスでしょう。『あまちゃん』のモデルでみんなが喜びあって経済のみではなく心の復興をめざすべきではないでしょうか。7年後の東京オリンピックの開会式には潮騒のメモリーズを再結成して、そこでものすごくアナーキーなパフォーマンスをやってもらって、みんなで久しぶりに「じぇじぇじぇ」って(笑)。
第3回「『あまちゃん』的な価値観が次の時代を作る」中森明夫が示す、能年玲奈と日本の未来に続く
(インタビュアー=岡島紳士/写真・文=編集部)

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