「僕はAKBにハマりすぎて、地下に流出した」社会学者濱野智史が案内する、地下アイドルの世界

 僕がAKBにハマったのはずいぶん遅い2011年からですから、昔の売れる前のAKBのことはよくわかりませんが、それこそ古参の人たちの話を聞くと、本当に毎日のように劇場で会いに行くことができた。でもいまのAKBでそれは無理です。じゃあ昔のAKBに近いものはどこにあるのかというと、地下アイドルになるんですよね。それにだいたいヲタというのは周りのヲタの流出タイミングを見計らっていて、“こいつはそろそろAKBから地下アイドルに行く潮時だな”と見ると、いいタイミングで声をかけて地下に連れて行ってくれる(笑)。みんなが通る道だから、必ずハマるという確信があるんらしいんですよね。

 もっとも、地下アイドルは本当にピンキリですから、AKBやももクロが好きな大多数の人からすると、初めは“うわ、しょぼっ!”と思うこともあるでしょう。実際、僕もしょうもないステージを観ることも少なくないので、その感想が正しい部分もある。ただ、AKBを好きな人の8割には地下アイドルに流出する素地があるんじゃないかなとも思います。それでも地下アイドルの人気が爆発的に伸びないのは、やはり物理的な制限が大きくて、東京に毎日会いに来られる人が限られているからだと思いますね。

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アイドルをアーキテクチャの視点から分析する濱野智史氏。

――例えば、青SHUN学園などは福岡を拠点にしています。

濱野:地下アイドルの世界でよく議論されているのが、まさに“東京以外で、地下アイドルは成立するのか”ということです。ローカルアイドルはいますが、結局は東京に来ないと売れないわけで、地元だけで持続可能なアイドルというのはほとんどいないようですね。地方都市で、土日以外の平日もアイドルが毎日ライブをやっているような地域はほとんどないと聞きます。ギリギリで名古屋でしょうかね。だから、青春女子学園を始めとして、たいていの地方アイドルは夏休みのあいだずっと東京に遠征に来ている。東京にいるのに、毎日のようにローカルアイドルを見ることができる状態にあります。

 だから地下アイドルにハマるといっても、いまはある限られた人しか得られない経験なのかもしれない。しかし、それでも地下アイドルにハマる余地のある人は、まだまだ潜在的にはたくさんいると思います。僕は“近接性”、つまり近くまで行けることがいまのリアル系アイドルの魅力だと思うんですが、アイドルヲタ用語にも“接触厨”という言葉があって、要は僕の立場はそれなんですよね。アイドルという向こう側の存在なのに、すごく近くまで行くことができる。それは物理的な距離という意味でもそうだし、心理的な距離という意味でもそうです。アイドルのメンバーとコミュニケーションをして、関係性を築くことができる。そこに魅力を感じる人であれば、必ず地下アイドルにハマるでしょうね。だってAKBの握手会とかより圧倒的にコスパがいいですから。AKBなら10秒1000円のところが、地下アイドルなら1分1000円なんてザラです。「量が質に変わる」じゃないですが、それはやっぱり圧倒的なんですよね。

――かつてのアイドルはメディアを通して観るものでしたが、今は違うルートで楽しむことができるわけですね。

濱野:もちろん今でも、“メディア越しに可愛い女の子たちを観ていればいい”という、“在宅”の人はいます。かつては「アイドルはテレビの向こう側にいる存在だ」と思われていたわけで、今のアイドルのあり方はずいぶん変わってしまったともいえる。でも、僕はアイドルというのは常にメディアの変化に敏感な存在なんだと思うんですよ。メディアの構造が変われば、アイドルのあり方も自然と変わる。今はソーシャルメディアが中心の時代で、それこそ地下アイドルの子たちはデジタル・ネイティブ世代だし、テレビも昔ほど見ていない。“身の周りの人間関係がすべて”という時代に生まれたアイドルの子たちは、テレビのような強いメディアに露出すれば売れることは知っていても、それはごく限られた世界の話であって、むしろ身の回りのファンやメンバーとの関係性こそが大事なんだと考えているんじゃないかなと思いますね。

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