>  >  >  > 「ニコ動」が生んだ前山田健一の個性

さやわかの「プロデューサー列伝」 第2回:前山田健一(ヒャダイン)

ももクロ躍進の立役者・前山田健一は、なぜ奇想天外な曲を作るのか?

関連タグ
ももいろクローバーZ
さやわか
アイドル
ニコニコ動画
プロデューサー
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
20130729maeyamada.jpg

ヒャダイン 他『23時40分(初回限定盤)(DVD付)』(ランティス)ジャケット画像

 近年、ニコニコ動画から登場するミュージシャンはますます多くなっていて、音楽業界では全く無視できない存在になっている。オリコンチャートの上位にニコニコ動画関連のクリエイターの名前を見ることは珍しくないし、そうでなくても人知れずロングヒットを続けている作品は多い。

 でも従来の音楽シーンの側が、音楽家としての彼らに理解を深めているとは言い難い。けっこう十把一絡げに「ニコニコ動画出身」「再生数○万回」という惹句が躍るばかりだ。要するに、今や新しいミュージシャンたちを「ネット出身」という言葉だけで片付けるのは難しくなっている。ネット出身者にもいろいろな形があって、その違いが彼らの活動を特徴付けているのだ。それは「ネット/現実」という単純な二項対立の時代の終わりをも意味している。音楽というジャンルはそうした変化が分かりやすく現れていて、その意味で新しい時代の先頭にある。

 まずこうした状況を理解しないと、前山田健一のプロデューサーとしての特徴は分かりにくいはずだ。彼がヒャダインという名で初めてニコニコ動画に投稿した2007年末のことだが、たとえば彼は既に発売され人気となっていたボーカロイドを使って登場したわけではない。彼自身が歌い手として、しかも老若男女の声を使い分けるタイプの個性派として登場した。そして、その作品は主にゲーム音楽をアレンジし、そのメロディに歌詞を付けて歌うものだった。そうした路線は彼の登場から1年ほど前には既にニコニコ動画で人気のジャンルとして存在した。

 近年のニコニコ動画の作家は分業が進んできているが、ヒャダインが歌い手もアレンジャーもこなすという万能さを求めたのは、比較的早い時期に活動を始めたせいかもしれない。しかしヒャダインが特徴的だったのは、多彩な声音を使い分けて曲中に複数のキャラクターを配し、歌劇というか、掛け合いのストーリー仕立てのように楽しませる曲を得意としたことだ。またアレンジ面では移り気な動画の視聴者たちが飽きてしまわないように(僕が彼にインタビューしたときには、「みんな2分で飽きる」と言っていた)、奇想天外で唐突なコード進行や展開を多用するようになっていく。

 こうした個性はニコニコ動画での再生数を伸ばすために行われたものだが、やがてメジャーシーンにおいて強力な武器となっていく。綿密なヒアリングによって歌い手の個性を探り、歌詞にそれを反映させ、そしてジェットコースターのように耳を奪う。ももいろクローバーや私立恵比寿中学、でんぱ組.incなどのアイドルとの仕事はそれが高いレベルで結実している。

 実は、前山田健一はアイドルの曲よりも前に、東方神起や倖田來未の楽曲でオリコン週間1位を獲得している。だがニコニコ動画で生まれたヒャダインの個性がよりそのまま人の心をつかんだのは、アイドルプロデュースのほうだと言っていいだろう。それはアイドルとネット出身者が盛況な今日の音楽シーンのあり方に照らしてみても、ごく自然なことのように思われる。

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』がある。Twitter

表示切替:スマートフォン版 | パソコン版