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- 2013.07.23
とにかく濃い、すごい、と話題沸騰の『予襲復讐』。なんと6年4ヶ月ぶりのニューアルバムだ。この6年の間に音楽シーンの勢力地図は大きく変化した。「熱いのはロックよりもアイドルだ!」「ロックであるからには3・11以降のメッセージを掲げるべき!」。そんな風潮をものともせず、新作の到着に沸き立つファンが健在だったこと。それはマキシマム ザ ホルモンがいかに代替の効かない存在なのかを改めて教えてくれるトピックだろう。
彼らの魅力を挙げるなら、何はなくともライブの楽しさである。鋼鉄のリフ、ハードコアなシャウト、超ポップなメロディが畳み掛けられる楽曲は、アウェイもクソもなく「盛り上がらずにはいられない」即効性の高さを誇るもの。KORN並にヘビーなバンド、スリップノットくらい攻撃的なバンドは他にはいるが、同じ曲の中にラモーンズのコーラスを持ち込めるバンドはそんなにいない。さらに言うなら男臭さムンムンな爆音の中に突如アイドル級のメロを挿入し、キュートな女性ボーカルでみんなを踊らせてしまうバンドは世界的に見ても例がない。メンバー全員が歌えること、歌声に見るキャラクターがきっぱり分かれていることは、このバンド最大の武器となっている。
キャラの話でいえば、ダイスケはんとナヲのMCはほとんど完璧な漫才だ。そこをバンドの顔として見てしまえば、ホルモンの楽しさは良くも悪くもガキ向けの、IQ低めなエンタメという言葉で片付いてしまう。そしてまた、根っから陽気な人間がいくら「マザーファッカー」などと不穏な言葉を絶叫しても、それはただの空砲で終わるはずなのだ。真に燃えたぎる怒りや苦しみのない叫びは胸に刺さらない。当たり前の話だ。
その点ホルモンが素晴らしいのは、エンタメを担当する二人の裏で、すべての作詞作曲をマキシマムザ亮君が手がける、いわば「完全分業制」を取っていることだ。詳しくは新作のブックレット、もはやCDパッケージの概念を覆す膨大な解説および漫画に描かれているが、やたら楽しいライヴの裏で永遠に救われない鬱憤を抱える作り手がいる。乱暴に言うなら、リアルな負の感情を爆発させるために「明るく楽しい」客寄せパンダをフロントに立たせているのだ。そんな構造で成立しているのはこのバンドだけである。姉弟でやっているから、という理由ではない。すべての頭脳は亮君だが、営業担当のダイスケはんとナヲが彼の曲の大ファンなのだろう。知られざる亮君の内面をいよいよ噴出させた『予襲復讐』が過去最高にディープな内容となったことを、一番喜んでいるのはメンバー自身ではないかと思っている。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。
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